
(画像:Geneva Historical Society引用)
スコットは1956年の録音から1961年に交通事故で死去するまで、約5年間しか音源を残していない。
そしてそれらの音源の中で群を抜いて著名なものといえば、前述した通りビルとのファーストトリオの音源である、リバーサイド4部作であろう。
残念ながらこの4部作において、スコットのベースとポールのドラムが浮遊感のあるタイムで演奏されているため、ソリッドなリズムではないと言える。
(彼らの名誉のために述べておくが、この浮遊感のあるタイムとは、オンテンポではないものの、驚くべきほどに完璧かつ綿密に共有されたタイム感のことである。)
これがかっちりとしたタイム感のスイングを好む人々にはよく映らないのであろう。
現在、簡単に手に届くスコットの演奏を録音した音源は57年ピアニストPat MoranとボーカリストBeverly kellyと演奏した音源であろう。
そこで、アルバム9曲目、”But not for me”を聴いてみよう。
イントロ開け、テーマに入ると、スコットの力強いウォーキングベースが聞こえてくる。
彼の音楽に対する無限のエネルギーが、4分音符のウォーキングに表出している。
トラディショナルなウォーキングフレーズは、3小節目、ボーカルの主旋律が抜けると、早くもスコットの極めてトリッキーで個性剥き出しな、三連符フレーズへと変化する。
アルバムレコーディング時、1957年おいては、考えられないフレーズを、完璧なピッチ、サウンド、タイム感で演奏している。
同じようなフレージングはテーマが終わり、ピアノソロ1周目においても聴くことができる。
3連符のインタープレイである。
そして彼のプレイは、パット・モランとのトリオにおけるアルバム”This is Pat Moran”において極限までその自由度を高めることとなる。
特にアルバム3曲目”Onilisor”におけるスコットのプレイはどんなプレイヤーも真似できない、唯一無二のベースラインである。
イントロ、テーマ共に、スコットが主旋律を奏でるのだが、この演奏がすごい。
これほどまでトリッキーなフレーズを高音域で、極めて正確なピッチで演奏しているのだ。
(文:矢吹真吾 編集:濱田真秀)