
(画像:Geneva Historical Society引用)
本章にて、ベーシスト、スコット・ラファロの評価についてはっきりさせておきたいことがある。
よくスコットのこのようなプレイが唯一無二で最高にスリリングであるという話をすると、
だとか言われてしまう。
確かにスコットの生きた時代より後の時代には、とてもピッチが正確で、速くメロディアスな演奏ができる素晴らしいプレイヤーが多い。
エヴァンストリオの後任として、エヴァンスの死期が近い中活動したMarc Johnson、他にもNiels- Henning Ørsted Pedersen、George Mrazと言ったプレイヤーも極めてピッチが正確で、なおかつテクニカルなプレイをする。
しかし彼らがスコットの演奏に対して、個人的に一歩及ばない(好みではない)と感じてしまう部分がある。
それはベースのサウンドである。
ここで、スコットが演奏するMy romanceと後任のマーク・ジョンソンが演奏するMy romanceを聴きくらべてみよう。
トリオ自体のバンドサウンドが両者根本的に異なることは重々承知である。しかし、お分かりになる通り、二人のベースサウンドは根本的に異なっている。
スコットのサウンドはコントラバス本来の木の温かみのある音が鳴っているイメージがあり、マーク・ジョンソンのベースサウンドはフレットレスのエレキベースのような平坦で、機械的なサウンドである。
ウォーキングのサウンドもスコットの時代と後の時代ではまったく異なる。
次にGeorge Mrazのウォーキングとスコットのウォーキングサウンドを聴き比べて見よう。
なぜここまでベースのサウンドが変化したのだろうか。
60年代までのベースサウンドはスコットはもちろんのこと、ポール・チェンバースやレイ・ブラウン、パーシー・ヒースと言ったプレイヤーの、ベースサウンドのように暖かみのあるサウンドが特徴的であった。
しかしこのベースの特徴を一変させる技術的革新が起きる。
それはベースアンプの誕生である。
ベース用のアンプができるまで、ベーシスト達は出来るだけバンドサウンドの中で埋もれぬように、弦高を上げ、音量を稼いだ。
ベースは弦高が高く、その弦をしっかりと抑え、強く弾くと大きく太いが出る楽器である。
しかし、ベースアンプの誕生でベーシスト達は音量の心配をする必要がなくなった。
そこでロン・カーターを始めとするベーシスト達はベースの弦高を下げ、自分達のテクニックの限界に挑んだ。小さくなった音量はアンプで補った。
しかし、その結果ベースのサウンドはコントラバス本来の音から変化してしまったのだ。
(文:矢吹真吾 編集:濱田真秀)