ジャズにおいて、サックスのきらびやかな音色と歌心溢れるフレーズは、いつだってジャズファンの気持ちを高揚させてくれます。
その中でも、ソニー・スティットというサックス奏者はわたしの大好きなサックス奏者のひとりで、ずっと憧れているプレイヤーです。
というわけでこんにちは!
Jazz2.0編集部の及川です
今日はビバップ・ハードバップ期を代表するアルトサックス /テナーサックス奏者のSonny Stitt(ソニー・スティット )を、半生を追いつつ、年代別に名盤をご紹介したいと思います。
生い立ち
1924年、スティットはアメリカ合衆国のボストンに生まれ、ミシガンで育ちました。
父親は大学の音楽教授、母親はピアノ教師、そして兄弟もクラシック音楽の教育を受けていました。このことからわかるように、スティットの家庭環境は音楽的に恵まれたものでした。
ジャズの王様と称されるチャーリー・パーカーとの出会いは1943年です。
パーカーとスティットは、お互いの演奏スタイルや目指す音楽性が似通っていることを認め合っていたといいます。
このような類似が見られたのも、スティットが摸倣したからだけではなく、部分的には偶然のためでもありました。
スティットはジャズサックス奏者の中では非常に珍しい、「アルト・サックスとテナー・サックスの二刀流」として有名です。
テナーサックスを演奏する時は、「スティットはパーカーの真似をしている」との非難を免れたからだとも言われています。しかし、実際には所属していたビッグバンドにおいて、デクスター・ゴードンやジーン・アモンズと並んで、テナー・サックスをより頻繁に演奏するようになっていたようです。
そのため、ソロ活動に移ってからも自分の表現したい音楽に応じてアルト・サックスとテナー・サックスを持ち替えています。
スティットはしばしば「パーカーのそっくりさん」と言われますが、パーカーがビバップという新しいスタイルのジャズを創造したのに対して、スティットはパーカーの正統的な後継者として、ビバップを追及した人と言えます。
1950年代の名盤
1950年代には、バド・パウエルやエディ・デイヴィスといったバップ・ミュージシャンと共演し、プレステージ・レコードに数多くの作品を残したほか、Argo、Verve、Roostといったレーベルからもアルバムをリリースしています。個人的にはこの頃のスティットの演奏が好きで、よく聴いています。いくつかご紹介いたします。
Sonny Stitt plays arrangements from the pen of Quincy Jones (1956) Roost
クインシージョーンズの編曲による素晴らしい曲たちが収録されている名盤です。どれも最高ですが、わたしは「Star Dust」のヴァース部分から吹きまくるスティットが特に大好きです。
New York Jazz (1956) Verve
ワンホーンで朗々と歌い上げるスティットが印象的なこのアルバム。テナーとアルト両方吹いています。わたしはスティットがアルトの高音で出すミャーという音がとっても大好きなのですが、このアルバムの一曲目の「Norman’s Blues」でもテナーながら炸裂しています。選曲もスタンダードが中心なので聴きやすいと思います。
Sonny Stitt Plays (1956) Roost
一曲目の「There will never be another you」は有名なスタンダードであり、アルト吹きならかなりの人々がトランスクライブしたことがあるのではないかと思います。かくいうわたしもそのひとりです。このアルバムもワンホーンでのびのび演奏するスティットが堪能できます。個人的には「Nearness of You」がお気に入り。
Sonny Stitt / Bud Powell / J.J.Johnson (1957) Prestige
スティットの初期におけるリーダー作です。発売年は1957年ですが、録音は1949-50年です。
メンバーはSonny Stitt – tenor saxophone J. J. Johnson – trombone (tracks 10–17)
John Lewis (tracks 10–17), Bud Powell (tracks 1–9) – piano Nelson Boyd (tracks 10–17), Curly Russell (tracks 1–9) – bass Max Roach – drumsです。
この盤ではスティットはテナーを演奏しています。
Personal Appearance(1957) Verve
こちらもワンホーン。テナーとアルトを吹いています。みんなご存知スタンダードが中心で、ボビー・ティモンズのバッキングの上で吹きまくるスティットが気持ちいいです。個人的にはこの暖色系のジャケットもお気に入りです。
どれもいいですが、このアルバムの中だと「Easy to Love」と「Autumn in New York」が好きです。
Sonny Stitt with the New Yorkers(1957) Roost
個人的な趣味丸出しなのですがこちらもワンホーンです。ピアニストはハンク・ジョーンズです。「I didn’t know what time it was」がお気に入り。もちろん「Cherokee」も疾走感のあるソロが最高に気持ちいいです。この盤ではスティットはアルトサックスのみを演奏しています。
Sits in with the Oscar Peterson Trio (1959) Verve
こちらでもご紹介したアルバム、ピアニストのオスカー・ピーターソンのトリオとスティットの共演盤です。豪快にスイングするオスカー・ピーターソントリオと嬉々として歌い上げるスティットの相性は抜群で、とにかく気持ちがいいです。どの曲も好きすぎて一番は決められないのですが……「I can’t give you anything but love」と「I’ll remember april」が特に好きです。あ、「Au Privave」もいいなあ……。全部素晴らしいです。
Sonny Side up! (1959) Verve
録音は1957年。ディジー・ガレスピーとソニー・ロリンズとの共演。「On the sunny side of the street」は名演ですね。後テーマではディジーの歌声を聴くことができます。「Eternal Triangle」はスティットの作曲です。スティットはあまり作曲家として曲を残してはいないのですが、この曲はセッションなどでもたまに演奏されます。
スティットは生涯で100枚を超えるレコードをリリースしており、その中でもこの年代は精力的に活動しているのでなかなか絞り込めず、まだまだ紹介したい名盤はたくさんあるのですが、次は60年代のスティットを見ていきましょう。
新たな挑戦も聴ける1960年代
1960年、スティットは短期間ですがマイルス・デイビスのクインテットに参加しています。
マイルス・デイビスのクインテットとの録音は、1960年のツアーでのライブ・セッティングでしか聴くことができません。マンチェスターとパリでのコンサートのほか、『Live at Stockholm』(Dragon)などで聴けます。
マイルスはスティットの過度の飲酒癖を理由に彼を解雇し、テナーサックス奏者のハンク・モブレーと交代させました。
スティットは1960年代後半になると、ビバップスタイルの創始者のひとり、チャーリー・パーカーに敬意を表して、ジム・ホールのギターをフィーチャーしたアルバム『スティット・プレイズ・バード』を発表しました。
また、友人であるサックス奏者のジーン・アモンズとは、アモンズ自身が麻薬所持で投獄されたことで中断されながらも、数々の印象的なレコードを録音しています。
アモンズとスティットのコンビは、ズート・シムズとアル・コーン、ジョニー・グリフィンとエディ・”ロックジョー”・デイヴィスと並んで、ジャズ界最高のデュエット・コンビとして後世に語り継がれることになりました。
60年代、スティットはソウル・ジャズにも挑戦しています。
1964年にはテナー・サックス奏者のブッカー・アーヴィンとアルバム『ソウル・ピープル』を録音しています。
また、スティットは、1966年のアルバム『What’s New』と1967年のアルバム『Parallel-A-Stitt』で聴くことができるように、エレクトリック・サックス(この楽器はバリトンと呼ばれていた)を実験的に使用した最初のジャズ・ミュージシャンの一人です。個人的にはスタンダードに吹いているスティットが好きですが、こちらの挑戦も新鮮なので一聴してみては。
録音ペースを落とした1970年代
1970年代に入ると、スティットはレコーディングのペースを少し落とし、1972年に名盤『Tune Up』を発表しました。この作品は、スコット・ヤノフをはじめとする多くのジャズ評論家から、彼の決定的なレコードとして評価されており、そしてわたしの大好きなレコードのひとつです。
Tune-Up! (1972) Cobbelestone
こちらもこの記事で紹介しています。
なんといってもピアニストのバリー・ハリスのバッキングの上で吹きまくるスティットが最高です。やっぱりワンホーンのスティットが好きですね。一番スティットを堪能できるのはこの編成だと思っています。
収録曲もスタンダードばかりなので初心者の方でも聴きやすいと思います。
晩年のスティット
晩年、スティットは首の悪性黒色腫を患っていました。
日本で行われる大物ジャズメンのコンサートといえば大都市でしか開催されないのが通例でしたが、地方の小さな町の人々にも本物のジャズを広める目的で、1982年7月12日からは北海道をスタート地点としたソニー・スティット・カルテットの日本全国縦断ツアーが予定されていました。
この最後のツアーはスティット自身の強い意志により実施されましたが、旭川で一曲のみ演奏したのを最後に演奏ができなくなってしまいました。
その後急遽帰国し、3日後にスティットは帰らぬ人となってしまいました。
演奏ができずスティットが帰国してしまったツアーの後半は、ステージ中央に置かれた椅子に彼の愛器を飾った状態で、ジェームス・ウィリアムス(ピアノ)、ナット・リーヴス(ベース)、ヴィニー・ジョンソン(ドラムス)のトリオのみでコンサートが行なわれました。
80年代からはこの一枚をチョイス。
Art Pepper Presents “West Coast Sessions!” Volume 1: Sonny Stitt(1980)
アルト・サックス奏者アート・ペッパーとの共演盤。ふたりのスタイルの違いが顕著でとっても楽しいアルバムです。
かなり多くのレコードを紹介してしまいましたが、実はまだまだ紹介したいレコードがたくさんあります。スティットは同世代のサックス奏者の中でも特に資料に恵まれているサックス奏者のひとりなので、是非バイオグラフィーを見ながら他のアルバムを聴いてみてはいかがでしょうか。
Youtubeで聴ける名演奏
Everything Happens To Me
コペンハーゲンでの1971年の演奏です。スティットのバラードは歌心に溢れていてのびやかでとっても気持ちいいんです。ちなみにピアニストはセロニアス・モンク、ドラムはアート・ブレイキーです。胸をギュっと掴まれるようなカデンツァが印象的。
Lover Man
こちらもバラード。ラヴァー・マンを歌い上げるスティットが最高です。メロディアスで祝福に満ちたスティットの音色を堪能できる演奏です。
Buzzy
2番目の動画と同じリズムセクションであることから、同じテレビ番組か何かの収録だと思われます。ブルースのスティットも本当に素晴らしくて最高です。軽快にスウィングし、ごきげんなスティットのブルースは聴いていて笑顔になります。
まとめ
というわけで、サックス奏者、ソニー・スティットの半生をたくさんのアルバムとともにご紹介させていただきました。
スティットはかなりの数の録音を残しているので、他にもたくさんの作品があります。是非他のレコードも聴いてみてください。
以上、Jazz2.0編集部の及川でした。