【大林武司 インタビュー】Visions in Silenceージャズの灯火を世界へ。
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ピアニスト大林武司がコロナ禍で見たジャズの可能性

ニューヨークを拠点に世界を舞台に活躍するジャズ・ピアニスト大林武司さんが昨年、日本から世界へジャズを発信する「”Visions In Silcence”プロジェクト」を始動し、2021年1月8日にプロジェクトと同名のニューアルバム『Visions in Silence』をリリース。

2021年2月には自身初の47都道府県ソロライブツアーを企画し、公演延期に見舞われながらも無事ツアーを遂行しました。
ツアータイトルは1公演につき10曲(合計470曲)を演奏することにちなんで、「470 songs, 1 journey」と名付けられました。

コロナ禍において「音楽の灯を消さないように、僕にできる映像を世界に向けて届けていく」という大林さん。プロジェクトにかける想いや、世界を舞台に活躍する音楽家として今後の活動への展望をインタビューさせていただきました。

大林武司 プロフィール
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ニューヨークを拠点に国際的に活躍するジャズピアニスト、キーボーディスト、作編曲家。 

2007年に渡米しバークリー音楽院に入学。翌年師事していたグラミー賞受賞ドラマーTerri Lyne Carringtonのバンドに加入し、プロ活動を始める。
その後オーディションを経てジャズ音楽家育成コースBerklee Global Jazz Institute第一期生に選抜され、世界各地のジャズフェスティバルに出演する傍ら現地ミュージシャンへのマスタークラスを行う。
卒業と同時に拠点をニューヨークに移し、Blue Note, Jazz at Lincoln Center, Smoke, Small’s, Jazz Standard,Birdland等のNYC主要ジャズクラブに数多く出演しながら、Takuya Kuroda, Jose James, MISIA, Terri LyneCarrington等の様々なバンドのツアーに参加し、これまでに約30カ国に上る世界各国のジャズフェスティバル、ジャズクラブにて演奏している。
2016年にはジャズピアノの世界大会Jacksonville Jazz Piano Competitionにおいて日本人として初の優勝を果たす。日本においても東京ジャズやビルボードライブなどの著名な会場にて数多くの来日公演を行なっている。
近年はジャズシーンのみに止まらず、ソリストとして広島交響楽団とガーシュインピアノ協奏曲ヘ長調を母校広島音楽高校定期演奏会にて客演、福山市政100周年記念委託作品として吹奏楽曲と琴を加えたジャズビッグバンド曲を作曲提供、NYC在住若手ジャズミュージシャンで結成したバンドJ-Squadに参加し、テレビ朝日報道ステーションのテーマソングを作曲演奏する等その活動は多岐に渡る。

プロジェクトを始めようと思ったきっかけ

ーーまず、一連のプロジェクトを始めようと思ったきっかけについて教えてください。

コロナウイルスによる影響で、昨年3月末にニューヨークから広島の実家に一時帰国を決めました。

昨年新しい作品を作りたいと思っていたのですが、アメリカに戻る目処がつかなくてなかなか活動することができませんでした。

秋くらいにしばらくこういった大変な状況が続きそうだし、できるようになってから制作するのではなくて、今できることをやっていかないとなと思ったのでこのプロジェクトをはじめました。今日本でできることを世界に発信することで、ニューヨークにいた時と同じような形で何かを表現していきたいと思ったのがきっかけです。

ーーVisions In Silenceというプロジェクト名にはどんな意味があるのですか?

コロナ禍で全ての活動が止まってしまい、人として従来の活動ができなくなり、街も閑散としてしまいました。そんな中で自分が音楽家として表現したいことを表現する機会を作ろうという意味を込めて、プロジェクトの名前をVisions In Silenceとしました。

47都道府県全てを回るツアー

ーーなかでも47都道府県全てを回るというツアーはすごく大きなプロジェクトだと思うのですが、こういったツアーの構想はいつからありましたか?

47都道府県をソロで回るという構想自体は以前からありました。

ニューヨークにいたときは(日本との)往復の飛行機の中で、「水曜どうでしょう」を観てて。それで自分もああいうゆるい旅をしたいと思っていました。今回、Visions In Silenceのプロジェクトをどういったものにしようかと計画中にソロピアノの作品を作ることになったので、「じゃあ47都道府県を回るツアーをやってしまおう」と決まりました。

それに、コロナ前は2ヶ月丸々ツアーをするのはスケジュール的には難しかったので、それも相まって決行することになりました。

ーー47都道府県で行ったことがなかった県もありましたか?

そうですね、意外とまだ行ったことがなかった県もありました。

今まで外国人アーティストとのツアーがほとんどだったので、どうしても採算が取りにくい地方までは手を伸ばせなかったんです。そういう意味では、全ての県をくまなく回れて嬉しかったですね。

ツアーは「自分自身との挑戦」だった

ーー47都道府県ツアー「470 songs, 1 journey」を経て体験、感じたことをお聞かせください。

ツアータイトルを企画したのは自分でしたが、実際に違う演目を毎日演奏し続けるというのは当初不安もたくさんありました。特にツアーは練りに練ったものや、きちんとリハーサルをしてミュージシャン同士が連携が取れるようになった状態で演奏することが多いです。でも今回はソロで、しかも毎回曲が違う。曲を知ってるとはいえ、その場で即興でアレンジしないといけないという部分に、うまくいくかどうかという確証はないんですよね。

そういった誰にも頼れない状況で、お客さんの前で作品を即興で作る、という挑戦を2ヶ月間やってきて、だいぶ「今」を感じられるようになったと思います。

失敗が怖いという気持ちはぬぐい切れないけれど、今何を自分がやってて次に何をやるべきか、すごく深く向き合えて貴重な経験でした。

ーーソロピアノというフォーマットだからこそできたことですね。

そうですね。それに、ピアノが毎回違うので、ピアノに合わせて自分のプレイスタイルを少し変化させる、そういったこともできて面白かったです。

あとは、ジャズの即興もある意味自分の知識の中でおさまりがちだなと感じました。

ーーそれはどういう意味ですか?

例えば、演奏する曲が違っていても毎回同じアレンジをしていたら、お客さんにはわからなくても自分にはわかる。いつもこの手口で演奏しているな、と。

そういったところで自分自身との挑戦が生まれてくると感じます。毎日違う曲を一人で演奏し続けなければいけないという環境に置かれて、ソロピアノというフォーマットでどんな表現ができるんだろう、と改めて深く考えました。

できるかどうかわからない目標を立てて、強制的にそれを長期間で行うことの有意義さを再確認しました。

ーーツアー中にモヤモヤしたことはありましたか?

ウイルスの影響で客足が遠のいたところもあるので、ツアー序盤はかなり不安でした。その中でもベストは尽くしましたが、お客さんが少ないと落ち込む自分がいたことも事実です。

ただ、このプロジェクト自体、「嵐の中に船を出したいんですけど」と言っているようなものなんですよね。それでも、沈むかもしれない、うまくいくかわからないこのプロジェクトにいろんな人が手を差し伸べてくれて。

ソロツアーとはいえ、帯同してくれたスタッフやブッキングを担当してくれた方を含め本当に大勢の方に協力していただき、たくさんの人が応援してくれているという事実を感じた時にツアーに対する不安は払拭されました。

大林武司の考える「アート」と「エンタメ」

ーーアートとエンタメは共存することが難しいと思われていますが、大林さんはどうお考えですか?

ソロピアノって、すっぴんで外出するみたいなものなんですよね。誰も助けてくれないし、90分間自分の出した音だけでお客さんを楽しませないといけない。

そういう状況になったとき、エンタメ性に富んでお客さんを楽しませるためにやった曲よりも、音楽で表現に徹した時にお客さんが喜んでもらったときがあって、そこにヒントがある気がしました。

例えばアフリカに行った時に感じた雰囲気をアレンジして表現してみようとか、波の穏やかな瀬戸内海の風景を音楽で作ろう、とか。

音楽って、一朝一夕には完成しないもので。長い時間かけて培うことを大切にしていかないと、アートもエンタメも未来はないのではないかと思います。

今の時代、情報をインターネットで仕入れて、表面的に人を魅了することは可能です。でも、国籍とか文化、時代を超えていいなと思われている音楽は、音楽が長い時間培ってきた歴史や、演者の歴史が音に色濃く反映されているものです。アートでもエンタメでも、いい音楽の共通点はそこにあると思います。

自分の出せるグルーヴをこだわって、どれだけオーガニックにできるか、どうやって他の楽器の音と自分の音をブレンドさせていくか、そういったものは長時間音楽と向き合わないとわからないことです。

自分が心から幸福感を感じた瞬間というのは、無条件に「ああ、いい音だ」「ああ、いいグルーヴだ」と思えた瞬間です。そういう演奏を自分ができた時、もしくは人が演奏しているのを聴いた時、今でもその感動をずっと覚えています。

そういう『音楽で心から幸せになれる瞬間』を常に追い求められるかどうかが、ひとつ面白いチャレンジだし、リスナー側も反応してくれてると思います。大きなJPOPのプロジェクトも、ソロピアノもやっていますが、どんなプロジェクトでも根底にはこれがあって、どちらにいてもそこの根底を大切に活動して学び続けたいと思っています。

コロナ禍で感じた「立ち止まること」の大切さ

ーー音楽家への新型コロナウイルスの影響は計り知れませんが、コロナ禍での意識の変化や新しい発見等はありましたか?

やっぱり、コンサートで演奏させていただけることに関してのありがたみはコロナ以前に比べてすごく思うようになりました。

あと、コロナ禍で仕事もなくなったので、とことん廃人になってやろうと1週間山籠りして瞑想してみたら、脳にも休息が必要なんだと知りました。

何もしないことの大切さというか。脳を使わないことで、クリエイティビティーに脳が使われるから面白かったですね。

ーー1週間寝食以外はずっと瞑想していたのですか?

そうです、寝食以外はずっと過去のことを繰り返し思い出して反省しました。1日目はこれ1週間か、となりましたが、1週間死んだっていう設定で行ったので2日目以降は意外といけました。

日曜の昼に山に行って財布とスマホを渡して、あとは1週間ずっと瞑想。それを経て、タイムマネジメントについてすごい考えるようになりました。

生産性を追い求めていたコロナ前より余白を意識するようになって、進むために立ち止まることの大切さを身をもって感じました。

これからの活動について

ーー今後はどのような活動を展開される予定ですか?

ツアーで延期になった公演の振替と、追加公演があります。延期公演を全て終えた千秋楽は、5月21日にブルーノート東京で演奏させていただきます。

今年はアメリカの現場に戻れそうにないので、今年いっぱいは日本に滞在して、来年ニューヨークに戻ることを目指します。

ーージャズお遍路の動画は47都道府県分上げるんですか?

そうですね。素材は47都道府県分、結構いっぱい溜まっているので、週2のペースで上げていきます。YouTubeもこれからうまく活用していけたら、と思ってます。

千秋楽が終わったら47都道府県ツアーの各公演から1曲ずつ選んで、ライブ盤の録音を発表する予定です。その場の空気感やピアノの個性が出ているので是非チェックしていただけたら嬉しいです。

ーー最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

やっぱりツアーを行ったことで、ライブだからこそ得られる感動に深く触れられたし、オーディエンスが音楽に与える影響が強いと感じました。ジャズはオーディエンスがいてこそ育ち、本来のものになります。こういった大変な状況を経たからこそ、ライブが再開したらミュージシャンはみんな白熱のライブを行っていくと思うので、是非ライブに足を運んで、盛り上げまくってください!

*大林武司 公式ホームページ https://takeshi.online/
*Visions In Silence 特設ホームページ http://www.rocks-inc.com/ohbayashi.html
*”Save Your Heart” Takeshi Ohbayashi 大林武司 https://youtu.be/Coq5lmz1XEg
*大林武司 公式Youtube Channel https://www.youtube.com/c/TAKESHI_music/featured

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